東京高等裁判所 昭和38年(ネ)285号 判決
被控訴代理人は、「泉芳政弁護士が被控訴人の代理人として上記金一千万円の約束手形について控訴人と和解契約をなし、しかも右金一千万円に関連の深い本件請求について訴提起当時から原審および当審において訴訟行為をなしたことは、弁護士法第二五条第一号の規定に違反する。よつて、右訴訟行為中、当審における第一四回口頭弁論期日における訴訟行為、すなわち証人長野国助に対する第一回の尋問手続についてのみ無効として異議の申立をする。」旨主張するので判断する。
被控訴人主張のように、泉芳政が上記金一千万円の約束手形について控訴人と和解契約をなしたことは、前叙のとおり当事者間に争いがなく、本件において同弁護士が上記認定のように右金一千万円に関連の深い本件請求について、訴提起当時から原審および当審において控訴代理人として訴訟行為をなしたことは、本件記録により明らかである。泉芳政弁護士の右訴訟行為が弁護士法第二五条第一号に違反することは、被控訴代理人の主張するとおりである。右の違法な訴訟行為は、控訴人の側からみれば、あたかも訴訟代理権のない代理人によりなされた訴訟行為の面をもつとともに、被控訴人の側からみれば、背信的な行為で、その利益が侵害される違法な訴訟行為の面をもつものと認めることができる。従つて、瑕疵ある右訴訟行為の効果は、この二つの面から考察しなければならない。そこで、控訴人に対する右訴訟行為の効果について考えるに、弁護士法第二五条第一号に違反せる弁護士の訴訟行為は絶対に無効であるとの説はあるが、当事者の保護と訴訟の安定と訴訟経済ということを考えると、これを絶対に無効とするまでの必要はないと同時に、また控訴人主張のように、効力には無関係であると解することもできない。右訴訟代理人の行為の効力について、上記二つの面から考えると、控訴人の面からみれば訴訟代理権のない代理人によりなされたものに準じ、民事訴訟法第八七条、第五四条の規定により当事者又は適法な訴訟代理人が追認することによつて有効となると解するを相当とする。そして、控訴人の他の代理人が泉弁護士の辞任後である当審における第二三回口頭弁論期日において泉弁護士の上記訴訟行為を一体として追認しているから、右訴訟行為は、その行為の時に遡り、控訴人のために有効となつたものと解せられる。他面、被控訴人の側からみると単にそれだけで訴訟行為が全面的に有効になるわけではなく、被控訴人に対する関係では背信的な違法な行為であること、前述のとおりであるから、被控訴人が訴訟行為について異議を述べれば、右訴訟行為は全体として無効となると解するのが、かかる二面的訴訟行為の性質および衡平の見地からみて相当である。しかしながら、本件においては、被控訴人は泉弁護士の一部の証人調べのみについて異議を述べ、その他の訴訟行為全部については異議を述べずに承認しているのであるから、少くともその他の泉弁護士がなした訴訟行為は、被控訴人に対する関係でも、瑕疵のない有効なものと解するを相当とする。もつとも、被控訴人は当審での証人長野国助の証言(第一回)の証拠能力を否定しているが、当裁判所は同証言を採用していないから、その点についての判断の要をみない。
(村松 兼築 吉野)